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静岡地方裁判所 昭和57年(行ウ)9号 判決

静岡県小笠郡浜岡町池新田五二〇三番地

原告

杉浦美智代

右訴訟代理人弁護士

大橋昭夫

石田享

大橋昭夫訴訟復代理人弁護士

小川秀世

伊藤みさ子

冨山喜久雄

同県掛川緑ヶ丘二丁目一一番四号

被告

掛川税務署長

兼橋銀造

右指定代理人

武井豊

山内敦夫

永田英男

加茂川清

長谷川巖

山下純

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和五六年三月九日付でなした、昭和五二年分所得税額を金二二万五二〇〇円とする更正決定のうち金二万八八〇〇円を超過する分と、加算税を金一万〇一〇〇円とする賦課決定、昭和五三年分所得税額を金二六万五七〇〇円とする更正決定のうち金三万三九〇〇円を超過する分と、加算税を金一万一五〇〇円とする賦課決定、昭和五四年分所得税額を金二八万四〇〇円とする更正決定のうち金三万四〇〇円を超過する分と、加算税を金一万二〇〇〇円とする賦課決定の各処分をすべて取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、肩書住所地において昭和五一年から「南大園」の屋号で焼肉店(以下「本件店舗」という。)を営んでいるものであるが、昭和五二年、同五三年、同五四年(以下「本件係争年」という。)分各所得税の申告書に別表一ないし三の「確定申告欄」のとおり記載してそれぞれ法定期限までに申告したところ、被告は、昭和五六年三月九日付で別表一ないし三の「更正賦課決定」欄のとおり更正処分(以下「本件各更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定」という。)をした。

これに対し、原告は、昭和五六年三月二三日、被告に対し異議申立をしたところ、被告は、同年六月二二日付でいずれも棄却する決定をした。原告は、更に同年七月二二日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、国税不服審判所長は、昭和五七年三月三一日、これをいずれも棄却する裁決をし、同裁決書は、同年四月二七日に原告に送達された。

2  しかしながら、本件各更正は、次の理由により違法であり、また、これに対する本件賦課決定も違法であるから、いずれも取消を免れない。

(一) 原告は、その経営する焼肉店の売上、仕入れ等を記帳した昭和五三年分と五四年分の現金出納帳(コクヨ製の会計帳簿を使用)と両年分に係る各月毎の売上及び仕入れの合計額を記載した訴外福嶋幸夫税理士作成の集計表(以下「集計表」という。)を備えつけており、税務調査に訪れた被告の係官にもこれを提示してその調査に協力したのであるから、実額での課税が可能であつたのに、被告は、推計課税により本件各更正をなした。

(二) 仮に、本件において推計が必要であつたとしても、できるだけ実額に近い推計を行うべきとする法の趣旨に従うならば、原告の事業所備付けの右各帳簿の売上、経費等をもとに、売上及び所得額を算出すべきであつた。

しかしながら、被告は、本件各更正においては、原告の各年度の料理飲食税の申告における売上金額を推計の基礎としており、しかも異議決定においては、原告が税務調査の中で明らかにした仕入れ金額を基礎とした比率法によつて推計し、本訴においては、プロパンガス使用量を基礎とした効率法による推計を主張するというように推計の根拠を二転三転させているのであるから、被告の採用した推計方法は、全く合理性のないものといわざるをえない。

3  よつて、原告は、被告に対し、本件各更正のうち別表一ないし三の確定申告欄記載の各金額を超える部分及び本件賦課決定の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実のうち、被告が推計課税により本件各更正をしたこと及び原告が昭和五三年分と五四年分の売上、仕入れ等を記載した帳面と福島幸夫税理士作成の集計表を被告の係官に提示したことは認め(但し、売上、仕入れ等を記載した帳面がコクヨ製の会計帳簿を使用したものであることは否認)、その余は争う。

同2の(二)の事実のうち、被告が、本訴において、プロパンガスの使用量を基礎とした効率法による推計を主張していることは認め、その余は争う。

三  被告の主張

1  推計課税の必要性について

(一) 帳簿等関係書類の不備

原告が、被告の税務調査に対し、本件係争年分の原告の事業所の帳簿関係書類として提示したのは、売上・仕入の外に、農協ローン、生命保険金、病院、預金等に係る出金状況をも記載されている昭和五三年分及び同五四年分の雑記帳(大学ノート)各一冊並びに両年分に係る各月毎の売上及び仕入れの合計額を記載した集計表のみであつた。

そして、昭和五三年分の雑記帳には、六月分の一七日以降の売上及び仕入れに係る記帳と、九月分の二六日以降の出金に係る記帳が記載されておらず、入金・出金の一部記帳もれが認められ、また、昭和五四年分については、売上金額につき、雑記帳に記帳されていた各金額の合計金額と集計表に記載されていた集計金額との間に相違が認められた。

(二) 税務調査に対する原告の非協力

(1) 掛川税務署所属の足立謙治係官(以下「足立係官」という。)は、昭和五五年五月二八日に本件店舗の臨場して行つた税務調査において、原告から昭和五三年分と五四年分の雑記帳と集計表の提示を受けたが、調査の結果前項記載の不備が発見されたので、原告に対し、帳簿等の記載内容につき関与税理士と共に再検討しておくように依頼して次回調査日を同年六月九日と約束した。

(2) 右六月九日、原告の夫と称するものから電話で、原告の体の具合が悪いので調査を延期してもらいたい旨の申出があつたことから、安立係官は、次回調査日を定めてもらいたいと申し入れたが、原告の夫と称するものは、後日都合のよい日を連絡すると言つて電話を一方的に切つた。

一方、同日、原告の関与税理士福嶋幸夫は、被告の係官に対して、電話で、「原告の記帳を再検討したところ、昭和五三年分の売上が申告額より一〇〇万円程度過少であること、昭和五四年分の売上・仕入の記帳内容に不備があること、右各年分の差益に不審が持たれること、以上の結果が判明し、また、原告は民主商工会(以下「民商」という。)に関与を依頼したので、同日の税務調査への立ち会いを断つてきた」旨述べた。

(3) その後、原告からは何らの連絡もなかつたことから、安立係官は、同月二五日、本件店舗に臨場して原告に前記の検討事項の説明を求めたところ、原告は、「本日は都合が悪い」と申し立るのみで、調査に応じようとしなかつたので、調査日を七月四日と確約した。

(4) 同月一日、原告から、七月四日は都合が悪いので調査を延期してもたいたい旨電話連絡があつたので、調査日を決めてもらいたいと要請したところ、原告は、電話を一方的に切つた。

(5) その後、昭和五六年二月二日までの間、安立係官は、六回にわたり本件店舗に臨場して原告に面談し、調査に協力してもらいたい旨要請したが、原告は、その都度、「都合が悪い。」とか、「民商に頼んである。」とか、あるいは「年内は忙しいので応じられない。」等と言つて、係員の調査に応ずる態度を全く示さなかつたばかりでなく、安立係官が原告事務所を辞去する際、原告との間で確約した次回調査の日程についても、民商事務局において、電話連絡で一方的に調査期日を変更するなどして、引き延ばしを計つたりもした。

(6) そして、昭和五六年二月上旬に至り、民商事務局員と被告の係官との折衝の結果、原告は、同月一七日に調査に応ずることを承諾したので、同日安立係官は、本件店舗に臨場したところ、同所には、原告及び原告の夫の外に民商事務局員と民商会員と思われるもの五名が待機していた。

安立係官は、「原告以外の関係のない者の同席のもとでは、調査を行うことができないので、原告以外のものは退去してもらいたい。」旨要請したが、民商事務局員らはもとより、原告もこれを無視し、一方的に原告の昭和五四年分の収支金額を記載したメモを読み上げるのみで、帳簿等関係書類の提示の要請に対してもこれに応じようとしなかつたことから、安立係官は、原告から調査の協力を得ることは無理であると判断して辞去した。

(三) 被告は、右(一)、(二)の事情から、これ以上原告に対する調査を行つても原告から所得計算のための資料が提出される見込みはなく、実額によつて所得金額を算出することは到底不可能であると判断し、安立係官に原告の取引先等の反面調査を命じ、その調査によつて知り得た資料に基づいて所得金額を推計計算により算出し、これによつて原告の本件各更正をなしたものである。

2  本件課税処分の根拠について

被告が本訴において主張する原告の昭和五二年分ないし同五四年分の事業所得の金額及びその算出根拠は、次のとおりである。

(一) 昭和五二年分

(1) 総収入金額 金一七〇三万九一九一円

原告の事業所得に係る総収入金額の実額については、前記1のとおりこれを把握することができなかつたため、原告の事業所を所轄する掛川税務署管内及び近隣の静岡県中・西部地区(清水、静岡、藤枝、島田、磐田及び浜松の各税務署)を所轄する税務署管内において、原告と同種の事業を営み、青色申告書を提出している個人事業者で、別紙同業者の抽出基準記載の条件に該当する者(以下「同業者」という。)の昭和五二年中におけるプロパンガスの使用量一平方メートル当たりの収入金額の平均値(以下「平均収入金額」という。)を別表四のとおり、三万四三七四円と算出し、これを同年中の原告のガス使用量一平方メートル当たりの収入金額と認めて、これに原告の同年中におけるガス使用量四九五・七立方メートルを乗じて原告の総収入金額一七〇三万九一九一円を算出したものであり、その算式は次のとおりである。

平均収入金額 ガス使用量 総収入金額

34,374円×495.7m3=17,039,191円

なお、原告のガス使用量については、昭和五二年一月分ないし同年四月分の数量が取引先の資料の廃棄により把握することができなかつたため、次のとおり算定した。すなわち、原告の昭和五三年及び昭和五四年における一月分ないし四月分のガス使用量が右各年分の年間使用量に占める割合の平均値四七・七二パーセントを算出し、これを一から控除した五二・二八パーセントを、原告の昭和五二年五月分ないし同年一二月分使用量の合計二五九・二立方メートルに適用して、原告の昭和五二年分の年間ガス使用量四九五・七立方メートルを算出したものであり、右の計算明細及びその算式は次のとおりである。

〈省略〉

(算式)

5月~12月ガス使用量 (1-0.4772) 年間ガス使用量

259.2m3÷0.5228=495.7m3

(2) 算出所得金額 金五二三万二七三五円

原告の事業所得に係る売上原価及び一般経費の実額についても、前記1のとおりこれを把握することができなかつたため、前記(1)の総収入金額からこれらの金額を控除した後の所得金額(以下「算出所得金額」という。)を計算すべく、同業者の総収入金額に対する算出所得金額の割合の平均値(以下「算出所得率」という。)を別表四のとおり、三〇・七一-セントと算出し、これを前記(1)の総収入金額に適用して、原告の算出所得金額五二三万二七三五円を算出したものであり、その算式は次のとおりである。

総収入金額 算出所得率 算出所得金額

17,039,191円×30.71%=5,232,735円

(3) 雇人費 金 五〇万四〇〇〇円

これは原告が従業員訴外川畑逸子に対して支払つた昭和五二年分の賃金の総額である。

〈2〉 借入金利子 金 一四万七三一六円

これは、原告が昭和五二年中に支払つた浜岡農業協同組合朝比奈支所に対する借入金利子七万五二九五円及び国民金融公庫浜松支店に対する借入金利子七万二〇二一円の合計額である。

〈3〉 建物減価償却費 金 二五万六六八〇円

これは、原告が事業の用に供している建物の減価償却費で、次の算式により求めたものである。

取得価額 残存価額 償却率 減価償却費

(6,200,000-620,000)×0.046=256,680円

なお、建物の取得価額六二〇万〇〇〇円は、

原告が昭和四九年一一月に取得したものであり、その減価償却率は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和五二年大蔵省令第九号)」別表第一に掲げる建物・木造「飲食店用」の耐用年数二二年の定額法による償却率〇・〇四六を使用したものである。

〈4〉 地代 金 二二万七七四五円

これは、原告が昭和五二年中に支払つた訴外落合茂に対する地代一一万五二二五円及び同長尾要一に対する地代一一万二五二〇円の合計額である。

(4) 事業専従者控除額 金 四〇万円

これは、原告の義父訴外杉浦弥一が原告の事業に専従者として従事していたことに対する事業専従者控除額四〇万円である。

(5) 事業所得の金額 金三六九万六九九四円

(2)の算出所得金額から(3)の特別経費及び(3)の事業専従者控除額を控除した金額である。

(二) 昭和五三年分

(1) 総収入金額 金二二二〇万一四〇四円

この金額の推計方法は、前記(一)(1)で主張したところと同様であり、同業者の昭和五三年分の平均収入金額を別表五のとおり三万四一三五円と算出し、これに原告の同年中におけるガス使用量六五〇・四立方メートルを乗じて原告の総収入金額二二二〇一四〇四円を算出したものであり、その算式は次のとおりである。

平均収入金額 ガス使用量 総収入金額

34,135円×650.4m3=22,201,404円

この金額の推計方法は、前記(一)(2)で主張したところと同様であり、同業者の算出所得率を別表五のとおり三〇・一〇パーセントと算出し、これを前記(1)の総収入金額に適用して、原告の算出所得金額六六八万二六二二円を算出したものであり、その算式は次のとおりである。

総収入金額 算出所得率 算出所得金額

22,201,404円×30.10%=6,682,622円

(3) 特別経費 金 一〇八万〇二八〇円

特別経費の内訳は次のとおりである。

〈1〉 雇人費 金 四八万円

これは、原告が従業員訴外川畑逸子に対して支払つた昭和五三年分の賃金の総額である。

〈2〉 借入金利子 金 二二万八三七五円

これは、原告が昭和五三年中に支払つた浜岡農業協同組合朝比奈支所に対する借入金利子一三万〇三七四円及び国民金融公庫浜松支店に対する借入金利子九万八〇〇一円の合計額である。

〈3〉 建物減価償却費 金 二五万六六八〇円

前記(一)(3)〈3〉で主張したとおりである。

〈4〉 地代 金 一一万五二二五円

これは、原告が昭和五三年中に支払つた訴外落合茂に対する地代一一万五二二五円である。

(4) 事業専従者控除額 金 四〇万円

前記(一)(3)で主張したとおりである。

(5) 事業所得の金額 金 五二〇万二三四二円

(2)の算出所得金額から(3)の特別経費及び(3)の事業専従者控除額を控除した金額である。

(三) 昭和五四年分

(1) 総収入金額 金一六七三万三四九三円

この金額の推計方法は、前記(一)(1)で主張したところと同様であり、同業者の昭和五四年分の平均収入金額を別表六のとおり三万三六六九円と算出し、これに原告の同年中におけるガス使用量四九七立方メートルを乗じて原告の総収入金額一六七三万三四九三円を算出したものであり、その算式は次のとおりである。

平均収入金額 ガス使用量 総収入金額

33,699円×497m3=16,733,493円

この金額の推計方法は、前記(一)(2)で主張したところと同様であり、同業者の算出所得率を別表六のとおり三四・八〇パーセントと算出し、これを前記(1)の総収入金額に適用して、原告の算出所得金額五八二万三二五五円を算出したものであり、その算式は次の通りである。

総収入金額 算出所得率 算出所得金額

16,733,493円×34.80%=5,823,255円

(2) 特別経費 金 一一九万二〇六六円

特別経費の内訳は次のとおりである。

〈1〉 雇人費 金 六〇万九〇〇〇円

これは、原告が従業員訴外川畑逸子に対して支払つた昭和五四年分の賃金の総額である。

〈2〉 借入金利子 金 二一万一一六一円

これは、原告が昭和五四年中に支払つた浜岡農業協同組合朝比奈支所に対する借入金利子一五万三七八三円及び国民金融公庫浜松支店に対する借入金利子五万七三七八円の合計額である。

〈3〉 建物減価償却費 金 二五万六六八〇円

前記(一)(3)〈3〉で主張したとおりである。

〈4〉 地代 金 一一万五二二五円

これは、原告が昭和五四年中に支払つた訴外落合春男に対する地代一一万五二二五円である。

(4) 事業専従者控除額 金 四〇万円

前記(一)(3)で主張したとおりである。

(5) 事業所得の金額 金 四二三万一一八九円

(2)の算出所得金額から(3)の特別経費及び(3)の事業専従者控除額を控除した金額である。

3 前項の推計方法の合理性について

(一) 効率法採用の理由

所得を推計する方法としては、資産増減法、消費高法、比率法、効率法の四種類が一般に認められており、通常は、同業者の差益率、所得率などによる比率法が用いられているが、比率法を用いるには、その基礎となる当該納税者の売上や仕入れなどの金額が的確に把握されることが必要不可欠である。

ところが、原告の場合、売上は、主に不特定多数の客に対して現金取引によつてなされるため、第三者の立場にある被告が事後にその売上金額を的確に把握することは不可能に近く、また、仕入れも、本件係争年当時は、主として現金取引によつていたため、その仕入れ金額を的確に把握することはできなかつた。

このように、本件では、原告の売上金額や仕入れ金額など比率法を適用するに必要な基礎数値を的確に把握できなかつたので、被告は、その数量が明確なプロパンガスの使用量を基準として原告の売上金額(収入金額)をもとめ、それを基礎数値として同業者の算出所得率を適用するという、いわゆる効率法を採用したのであつて、本件の事情に照らせば、原告の所得金額を推計する方法としては、被告主張の推計方法が最も合理的な方法である。

(二) プロパンガスの消費量を計算単位とすることの合理性

(1) 原告の営む事業は、店内にガスロースター(ガスを熱源とする焼肉器)を備え、ロース、カルビ、ホルモン等の肉類・野菜・酒類及び米飯を顧客に提供し、顧客自らガスロースターで肉類あるいは野菜をあぶり焼きしながら飲食を行うものであり、原告は、そのガスロースターの燃料としてプロパンガスを利用しているから、プロパンガスの使用量は、顧客の数、肉類の消費量及び営業時間等に比例し、原告の売上にも直接比例するものである。

(2) そして、プロパンガスの使用量に影響を及ぼすその他の要因としては、気候の寒暖、ガスロースター以外のガス器具の使用等が考えられるが、そのうち気候の寒暖については、これがプロパンガスの使用量に影響を及ぼすことがあつたとしても、気候の寒暖は原告だけに影響を及ぼすものではなく、被告が本件推計に採用した同業者についても等しくその増減に影響を及ぼすものであるから、同業者のガス使用量を比較して原告の売上高を推計する方法に合理性があることには変わりがない。

(3) また、本訴において原告は、本件店舗においてロースター以外にガス風呂、暖房用ガスストーブなどを使用していると主張するが、原告及びその家族が本件係争年度中に本件店舗に居住していなかつたことは明らかであるから、右ガス風呂及び家庭用暖房によるガス使用量は、仮にあつたとしても極僅かであると考えられ、この使用量を売上の推計に当たつて控除しなかつたとしても、被告による推計が不合理であるとはいえない。

(3) 更に、次に述べるとおりの白灯油の使用状況に照らすと、仮に、本件店舗内の暖房のためにガスストーブが使用されたとしても、そのガス使用量は、ガスロースターによる消費割合に比べて極めて小さいものと推認されるから、この使用分を売上の推計に当たつて控除しなくとも、右推計の合理性には影響がない。すなわち、原告が、本件店舗の暖房のために購入している白灯油の購入金額を静岡県生活環境部長回答に係る家庭用灯油一八リットル当たりの配達料込価格で除して購入数量に換算された結果は別表七のとおりであつて、昭和五四年一月ないし三月、同年一一月及び一二月の五か月間の白灯油の購入総数量は、一七三五リットル、一か月の平均購入数量は約三四七・四リットルとなるから、本件店舗の一か月の営業日数を三〇日とすると、平均して毎日約一一・六リットルもの白灯油でもつて本件店舗内を暖房していたことになるのである。

4 本件課税処分の適法性について

(一) 原告の本件各係争年分の総所得金額(事業所得金額)は、前記2で主張したとおり、昭和五二年分が金三六九万六九九四円、昭和五三年分が金五二〇万二三四二円、昭和五四年分が四二三万一一八九円であるところ、本件各更正に係る総所得金額は、別表一ないし三の「更正賦課決定」欄のとおりであり、いずれも本訴主張の範囲内であるから、本件各更正は適法である。

(二) 原告は、昭和五二年分ないし昭和五四年分の所得税確定申告を過少に行つていたので、被告は、国税通則法六五条一項の規定に基づき本件更正により納付すべき所得税額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額の過少申告加算税の賦課決定処分を行つたものであり、そこには、何らの違法もない。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1(一)  被告の主張(一)の事実のうち、原告が、被告の税務調査に対し、昭和五三年分と同五四年分の売上、仕入れ等を記載した現金出納帳(大学ノートではない。)と集計表を提示したことは認めるが、その余は争う。

被告は、昭和五三年分について、六月分の一七日以降の売上及び仕入に係る記帳と、九月分の二六日以降の出金に係る記帳がなされていないことを論難するかの如きであるが、昭和五三年六月一七日から同月三〇日までは、原告の長女ひとみが手を骨折したため、原告は、その看病にあたつており、同年九月二六日から同月三〇日までは、原告の義父杉浦弥一が浜岡町内の奥村医院に病気で入院したのでその付添い看護の必要が生じたため、それぞれ現金出納帳に記載できなかつたものであり、記帳漏れというような大袈裟な状態ではない。また、被告は、昭和五四年分の売上金額について、現金出納帳に記載されていた各金額の合計金額と集計表に記載されていた集計金額との間に相違が認められた旨主張するが、原告は、福島幸夫税理士に対し、昭和五四年分の会計帳簿をそのまま渡しており、集計表はこれに基づき同税理士が作成したものであつて、右相違は何ら原告の責任ではない。

(二)(1)  同1(二)(1)の事実のうち、安立係官が、本件店舗に臨場して、原告から昭和五三年分と同五四年分の会計帳簿と集計表の調査をしたことは認めるが、その日時は否認する。安立係官外一名の係官が、本件店舗を訪れて税務調査をしたのは、昭和五五年の暑くなりかけた頃のことである。

(2) 同1(二)(2)の事実のうち、原告の夫杉浦一洋が、安立係官に対し、「義父弥一の具合が悪く、看病する必要上、調査を延期してもらいたい。」旨連絡したことは認めるが、その日時は否認し、被告の係官と福島幸夫税理士との電話のやりとりは知らず、その余は争う。

(3) 同1(二)(3)の事実は否認する。安立係官らが、税務調査に訪れたのは、昭和五五年の暑くなりかけた頃である。

(4) 同1(二)(3)の事実は否認する。日時は不明であるが、原告ではなく同人の夫杉浦一洋が調査日の設定を執拗に求める安立係官らに対し、電話で、「父弥一の身体の具合が悪いから調査日をすぐ決めてくれと言われても困ります。父の病状をみて後日連絡します。」と述べたのであり、一方的に電話を切つたというようなことは断じてない。

(5) 同1(二)(5)の事実は、否認ないしは争う。昭和五五年七月頃から同年一二月頃までは安立係官の方から何ら音沙汰がなく、原告としても調査は終了したものと思つていたところ、安立係官らは、同年一二月頃、突然に原告に対し、税務調査をする旨通告し、「義父弥一の具合が悪いし、年末で忙しいので、年があけてからにして欲しい。」との原告の希望を聞き入れなかつたのである。

(6) 同1(二)(6)の事実のうち、安立係官が、本件店舗に臨場したことは認めるが、その時期は昭和五五年一二月のことであり、また、原告及び民商事務局員と安立係官との間のやりとりは争う。

右調査の際、安立係官が、「原告以外の関係のない者の同席のもとでは調査を行うことはできないので、原告以外の者は退去してもらいたい。」旨述べたことはあるが、民商事務局員らと安立係官らとの話し合いの結果、民商事務局員らの立会いに安立係官も同意したものであつて、そのやりとりは極めて平穏なものであつた。原告は、民商事務局員らの立会いのもと、安立係官らの要請に応じ、昭和五四年分の収支計算書を示し、経費に係る領収書等の原始記録の提示もした。しかるところ、安立係官が、原告に対し、「出納帳(雑記帳のことを示すと思われる)を見せてほし。」旨述べたので、原告は、おとなしく、「この前来た時によく見ていつたのに、なぜまた見せなければならないのですか。」と質問したところ、安立係官は、何を思つたのか突然怒り出し、「そんなことを言うのなら、調査に協力しなかつたものと見なす。」と乱暴な口調で述べ、原告方を一方的に立ち去つたものである。

(三)  同1(三)の事実のうち、被告が原告に対し、推計課税をしたことは認め、その余は、否認ないし争う。

2  同2の事実のうち、本件係争年分の特別経費及び事業専従者控除額についてはいずれも認めるが、その余は否認し、同3及び同4は争う。被告の推計は、次のとおり合理性を欠いている。

(一) 被告は、プロパンガスの使用量が直接売上に比例すると主張するが、もしこの主張が正しいとするなら、被告が推計に採用した別表一ないし三の同業者藤枝ア、藤枝イ、島田ア、浜松アの四事業所において、同一量のプロパンガスを使用した場合、売上高は、ほぼ同一となるはずである。

しかしながら、次の計算から明らかなように、算出売上額の差が一番少ない浜松アと島田アとの間でも、一六六万円余の誤差があり、算出売上額の一番少ない藤枝イと一番多い島田アとの間では、実に七四二万円余もの誤差が生じているのであるから、同業者間において、プロパンガス使用量と売上との比例関係は存しないというべきである。

藤枝ア 383.2m3×9,805,970円÷291m3=12,912,879円

藤枝イ 383.2m3×12,837,915円÷565.1m3=8,705,519円

浜松ア 383.2m3×14,644,430円÷385m3=14,575,692円

島田ア 383.2m3×12,374,439円÷294m3=16,128,860円

(年度は、全業者がそろう昭和五三年度。同一のプロパンガス使用量三八三・二立法メートルは、昭和五三年度の各同業者のプロパンガス使用量の平均値であり、算出売上額の一円未満については、四捨五入した。)

(二) また、被告は、原告の営む事業は、顧客が自らガスローターで肉類等をあぶり焼きしながら飲食を行うもので、その燃料はプロパンガスであるから、プロパンガスの使用量と売上は比例するとも主張するが、もしこの主張が正しいとするなら、同業者のプロパンガス使用量によつて生み出される熱量を、肉を焼き上げるに必要とする熱量で除すれば、同業者の店で、顧客が肉を焼き、食した量が算出され、それに単価を乗ずれば、年間の総売上額が算出され、それは、実際の売上額とほぼ一致するはずである。

ところが、次の計算から明らかなように、肉類等を焼き上げるだけに必要なガス使用量をもとに、同業者の年間使用したプロパンガス量から売上を推計すると、実際の売上額の十数倍もの売上を上げなければならなくなるのである。したがつて、被告が、売上に直接比例するとし、かつ、事実上売上の大部分を占める肉類の焼き上げに直接関与するプロパンガス量は、全使用量からみれば僅かであり、その余の多くのガスは、売上と直接関係のない湯沸かし、鉄板の加熱、味噌汁の保温などや、売上と直接関係があつたとしても、売上全体からみれば僅かな売上となる米飯や味噌汁作りのための使用等に費やされているのであつて、原告の営む事業において、プロパンガスの使用量を売上推計の単位とすることは合理的であるとはいえないのである。

(53年ガス) (ガス2m3の熱量) (年間総熱量)

浜松ア 385m3×26,260Kcal=10,110,100Kcal

(年間総熱量) (肉 1kg焼くのに必要な熱量概数) (年間に焼くことのできる肉量)

10,110,100Kcal÷200Kcal=50,550kg

(肉1kgの売価の概数) (年間に焼くことのできる肉の売上額)

50,550kg×4000円=202,200,000円

(実際の売上額) (算出額) (比率)

14,644,430円÷202,200,000円=7.2%

藤枝ア 291m3×26,260Kcal÷200Kcal×4000円=152,833,200円

9,805,970円÷152,833,200円=6.4%

藤枝イ 565.1m3×26.260Kcal÷200Kcal×4000円=296,790,520円

12,837,915円÷296,790,520円=4.3%

島田ア 294m3×26,260Kcal÷200Kcal×4000円=154,408,800円

12,374,439円÷154,408,800円=8.0%

(プロパンガス一立方メートル当たりの熱量二万六二六〇キロカロリーは、東海ガス株式会社調べの「プロパンガス一キログラム=〇・四七六m3  〇・一キログラム=一二五〇キロカロリー」より算出した。肉を焼き上げるのに必要とする熱量二〇〇キロカロリーについては、統計上の数値を知り得なかつたので、肉の成分の比重、比率が水のそれに近いこと、肉片を熱湯に入れるとすぐ煮上がること、また、焼いてもすぐ焼き上がることから、肉一グラムを焼き上げるに必要な熱量は、一〇〇カロリー(水一ccを一〇〇℃にするに必要な熱量)前後と推認したが、被告に不利な誤差が生じないように、その倍数である二〇〇キロカロリー(肉一キログラムでは一キロカロリー)を設定した。肉単価は、被告採用の同業者の売り単価が不明なこと、原価率から見て、原告が一番安く販売していると推認できることから、原告の売り単価の平均概数一〇〇グラム当たり四〇〇円を採用した。)

(三) 被告は、気候の寒暖が、被告が推計に採用した同業者についても等しくその使用量の増減に影響を及ぼすと主張するが、もしこの主張が正しいとするなら、被告が推計に採用した同業者一件一件の昭和五三年のガス使用量と売上との比率を算出し、昭和五四年のガス使用量に乗ずることによつて算出された売上額と、実際の売上額との間には、すべての同業者において等しい誤差が生じなければならない。

ところが、実際の売上額とプロパンガス使用量に基づいて比例算出した売上額との誤差は、別表八のとおり、プラス方向に誤差の生ずる同業者、マイナス方向へ誤差の生ずる同業者もあつて、ばらばらであり、その誤差の額もかなりの金額となつているので、気候の寒暖の影響によるガス使用量の増減は、全ての同業者に等しいとはいえないのである。

浜松ア(52年売上)(52年ガス)(53年ガス)(53年算出売上)

12,418,090円÷372×385=12,852,056円

(53年算出売上) (53年実際売上) (誤差)

12,852,056円-14,644,430円=△1,792,374円

以下、同様に藤枝アの昭和52年を基準に昭和53年を算出、浜松ア、島田ア、藤枝ア、藤枝イのそれぞれの昭和53年を基準として昭和54年を算出した結果は別表八のとおりとなつた。

(四) 被告は、ガス風呂、ガスストーブにおけるプロパンガス使用量は僅かなものであると主張するが、この主張も次の述べるとおり失当といわざるを得ない。

まず、ガス風呂におけるプロパンガス使用量について検討してみると、一回に沸かす風呂水量を原告の風呂の大きさから五〇〇リットル以上と推定し、上げるべき温度を二二・〇五℃と推定すると、水一リットルを二二・〇五℃上げるのに必要な熱量は二二・〇五キロカロリーであるから、一回入浴するのに必要な熱量は一万一〇二五キロカロリー以上となる。原告とその家族(夫一洋、長男直樹、長女ひとみ)は、本件店舗の建物に居住し、ここを生活の本拠としていたのであり、右建物に備えつけられていたガス風呂を沸かして毎日入浴していたのであるから、一年間の熱量は四〇二万四一二五キロカロリー以上となるのであつて、この必要熱量を作るために必要となるプロパンガス量は、一五三立法メートルとなる。右の計算の詳細は、次のとおりである。

(風呂水)(適温)(平均気温)(1の水を1℃上げる熱量)(1回の入浴に必要な熱量)

500×(42℃-22.05℃)×1Kcal=11,025Kcal

(1回の入浴に必要な熱量) (年間の入浴回数) (ガス1m3あたりの熱量)

11,025Kcal×365回÷26,260Kcal=153m3

このプロパンガス消費量をもとに、被告の主張する計算方法で昭和五四年の売上額を算出してみると、次の金額になるのであるから、ガス風呂によるプロパンガス使用量への影響は少ないという被告の主張は、明白な誤りである。

一五三×三万三六六九円=五一五万一三五七円

次に、ガスストーブの使用に伴うプロパンガス使用量について検討すると、被告は、原告が毎日約一一・六リットルもの白灯油でもつて本件店舗内を暖房していたことから、ガスストーブの使用時間は限られると主張しているが、原告の灯油ストーブは二台であり、うち一台は子供たちの居間に、もう一台は土間とはしきられた座敷の客間専用であつたことからみて、ガスストーブが暖房をうけもつた客間の広い土間に対する白灯油暖房の影響は少ないと推認するのが相当であつて、この点でも被告の主張は誤りである。

(五) そして、本件店舗最寄りの気候観測所である御前崎測候所における昭和五二年五月から昭和五四年一二月までの間の御前崎地方の気温の昇降(別表九)と乙第一号証の原告月別ガス消費量との関係につきグラフにすると、別表一〇のとおりとなり、原告プロパンガス使用量は、明らかに気温の寒暖に相乗的に比例しており、ガス風呂及びガスストーブの使用分の増減は気温の寒暖の影響を得に強く受けるのであるから、原告のプロパンガス使用量の増減が、気温の寒暖に相乗的に比例していることは、原告のプロパンガス使用量におけるガス風呂及びガスストーブ使用分の割合がかなり大きいことを示すものである。

第三証拠

本件記録中の書証目録、証人等目録の記載のとおりであるのでこれを引用する。

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  推計課税の必要性について

1  原告が被告の係官に対し、昭和五三年分と同五四年分の売上、仕入等を記載した帳簿と両年分に係る各月毎の売上及び仕入の合計額を記載した集計表を提示したこと、安立係官らが本件店舗に臨場して右帳簿及び集計表を調査したこと、原告の夫が安立係官に対し電話で税務調査の延期を申し入れたことがあることは、当事者間に争いがなく、証人宮嶋洋治の証言によつて真正に成立したことが認められる乙第七号証、証人安立謙治の証言、原告本人尋問の結果並びに右当事者間に争いのない事実を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  安立係官は、昭和五五年五月下旬、掛川税務署所属の古沢彰係官(以下「古沢係官」という。)と共に本件店舗に臨場して税務調査を行い、その際、原告から、昭和五三年分と同五四年分の売上、仕入等を記載した帳簿(以下「現金出納帳」という。)と両年分に係る各月毎の売上及び仕入の合計額を記載した集計表の提示を受けたが、右帳簿は、コクヨ製のルーズリーフ式の帳面で作成されており、集計表の方は、大学ノートに記載されていた。

(二)  安立係官らは、提示された帳簿の記帳状況の確認と、売上、仕入の集計結果の検算及び現金出納帳の出金内容の検討などを行つたところ、昭和五三年の現金出納帳には、六月分の一七日以降の売上及び仕入に係る記帳と、九月分の二六日以降の出金に係る記帳がなされておらず、また、昭和五四年分については、現金出納帳に記帳されていた各金額の合計金額と集計表に記載されていた集計金額との間に相違が見られ、更に、現金出納帳には、昭和五三年分及び同五四年分とも、「お年玉」、「母私用」、「生命保険」、「医療費」などの家事関連費と思われるものも支払いに計上されており、右家事関連費を集計すると各年分とも金二〇〇万円を超える金額となることが認められた。

(三)  安立係官は、現金出納帳と集計表に右の不審点が認められたので、原告に対し、関与税理士の福島幸夫税理士と相談して再検討しておくよう依頼して、同年六月上旬に次回の調査をする約束をしたが、原告と約束した次回調査当日になつて、原告の夫から電話で、「原告の体の具合が悪いので調査を延期してほしい」旨の申出があり、原告の夫は、安立係官が次回調査日を定めてもらいたい旨の要請したのに対し、「後で連絡する。」というのみであつた。

(四)  一方、福島税理士から、同日、被告の係官に電話があり、同税理士は、応対に出た古沢係官に対し、「原告の帳簿を再検討したところ、昭和五三年分の売上が申告額より一〇〇万円程度過少であること、昭和五四年分の売上・仕入の記帳内容に不備があること、昭和五三年分及び同五四年分とも差益に不審がもたれること、以上の結果が認められた。」と説明し、更に、「原告の依頼で調査に立ち会う予定であつたが、原告から、民商が関与してくれることになつたので、税理士の立会は不要になつたので来てもらわなくてもよいと断られた。」と述べた。

(五)  安立係官は、同年六月下旬にも本件店舗に臨場して、原告に対し調査に協力するよう説得したが、原告は、都合が悪いというのみで調査に応じようとせず、安立係官が原告との間で同年七月上旬に行うと約束した次の調査期日についても、原告から電話で延期の申出があり、調査ができなかつた。

(六)  その後、掛川税務署内の事務の都合で同年一二月まで原告に対する税務調査が中断されていたが、一二月上旬になつて、安立係官が本件店舗に臨場し、税務調査を行おうとしたところ、原告は、「本日は都合が悪い」とか「民商に頼んである」といつて、調査に応じようとしなかつた。

(七)  安立係官は、同年一二月中に更に二回、翌五六年一月中にも三回にわたり本件店舗に臨場して原告に税務調査に対する協力の要請を行い、また、調査日の約束をしてもらつたが、原告は、その度に「忙しい、都合が悪い、」等といつて調査への協力を拒否し、直前に電話で調査日の約束を取消す等した。

(八)  そして、昭和五六年二月上旬に至つて、掛川税務署の所得税担当の薮崎統括官が、民商事務局員との間で折衝した結果、原告は、同月一七日に税務調査に応ずることとなり、安立係官は、同日、本件店舗に臨場したところ、店舗内には原告及びその夫の他に民商の村松晴久事務局員と民商の会員四名も待機していた。

(九)  安立係官は、「原告以外の関係のないものの同席のもとでは調査を行うことができないので、関係のないものは退去してもらいたい」旨要請したが、原告らはこれに応じようとはしなかつた。そして、民商の村松事務局員が、原告の収支金額を記載したメモを読み上げたので、安立係官は、これを筆記したが、右金額を裏付する証拠資料等を見せてもらいたいとの安立係官の再三の要請に対し、原告らは「数字を見ればわかるではないか。」等といつて、その要請に応ずる様子を見せなかつたので、安立係官は、それ以上の調査は不可能であると判断し、本件店舗を辞去した。

2  右認定に対し、原告本人尋問中には、安立係官らが税務調査のため本件店舗を初めて訪れたのは、昭和五五年の暑くなりかけた頃のことであり、また、民商の村松事務局員らの立会のもとで税務調査がなされたのは、同年一二月のことであるとの供述部分がある。しかしながら、原告は、右本人尋問において、現金出納帳に昭和五三年六月一七日から同月三〇日までの記載がなされていないのは、長女ひとみが手を骨折して浜松労災病院に入院し、付添していたため、焼き肉店の営業を休んでいたためであると供述しているところ、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一〇号証の二及び第一一号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したことが認められる乙第一〇号証の一によれば、原告の長女ひとみがその時期に浜松労災病院に入院したことはないことが認められ、また、昭和六一年七月一一日の証拠調期日の尋問においては、「現金出納帳に昭和五三年九月二六日から同月末日までの出金の記載がなされていないのは、原告の義父杉浦弥一が入院し、その付添いをしたためである。」と供述しながら、その続行期日において、「右記載漏れは、長男直樹が耳の手術をするため菊川病院に通院するのに付添つていたためである。」と供述を変更するなど、原告の供述は時期の点でかならずしも記憶が正確であるとはいえず、前掲乙第七号証及び証人安立謙治の証言に照らし、原告右供述部分は信用しがたい。

また、原告本人尋問中には、民商事務局員らが立会つての税務調査の際、原告は、安立係官らに領収書等の原始記録を見せたとの供述部分があるが、右税務調査当日は、村松事務局員が原告の収支金額を記載したメモを口頭で読み上げるのみで、帳簿を見せてほしいとの安立係官の要請に対しても、原告らにおいてこれを拒否したことは、原告自身が認めるところであり、このようなやりとりの中で、原告らが、領収書等の原始記録についてのみ安立係官の要請に応じたとは考え難く、原告の右供述部分は、前掲乙第七号証及び証人安立謙治の証言に照らし信用できない。

なお、原告の本人尋問中、前記1の認定に反するその余の部分も措信することができない。

3  以上の認定事実に基づいて判断するに、まず昭和五二年分の事業所得については、原告は被告の係官に対し、収支を明らかにする帳簿書類等を全く提示していないので、所得の推計の必要性があることは明らかであり、また、昭和五三年分及び同五四年分についても、現金出納帳及び集計表の記載に(一)(2)の不審点があり、右不審点を解明するため、多数回にわたつて本件店舗に臨場し、原告に対し、調査への協力を依頼したのにもかかわらず、原告は、昭和五五年五月下旬の調査日以降は、現金出納帳及び集計表等の帳簿書類並びに経費に係る領収書等の原始記録を安立係官らに提示することを拒否し、税務調査に対し、非協力的態度を取つていたのであるから、所得の推計の必要性は存在していたというべきである。

三  被告主張の本件係争年分事業所得の算出根拠について

1  被告の主張2の事実のうち、本件係争年分の特別経費及び事業専従者控除については当事者間に争いがなく、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二号証、第三号証の一ないし七(但し、乙第二号証の原本の存在は当事者間に争いがない。)証人宮嶋洋治の証言及びこれによつて真正に成立したことが認められる乙第一号証、第六号証の一、二及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告が、掛川税務署管内及び近隣の静岡中・西部地区(清水、静岡、藤枝、島田、磐田及び浜松の各税務署)を所轄する税務署管内において、原告と同種の営業を営み、青色申告書を提出している個人事業者で別紙「同業者の抽出基準」記載の条件に該当する同業者を抽出した結果、別表四ないし五記載の藤枝ア、藤枝イ、島田ア、浜松アの四事業者が選び出されたこと、右同業者の本件係争年における総収入金額、事業用プロパンガスの使用量、算出所得金額は、別表四ないし五記載の通りであること、原告のプロパンガス使用量は、昭和五二年五月から同年一二月までが二五九・二立方メートル、昭和五三年一月から同年月までが六五〇・四立方メートル、昭和五四年一月から同年一二月までが、四九七立方メートルであること、昭和五二年一月から同年四月までの原告のプロパンガス使用量については、取引先の資料の廃棄により被告において把握することができなかつたこと、以上の事実が認められる。

2  そして、資料のない昭和五二年一月から同年四月までの原告のプロパンガス使用量につき、原告の昭和五三年及び同五四年における一月分から四月分のプロパンガス使用量の年間使用量に占める割合の平均値から推定し、昭和五二年分のプロパンガス使用量を算出する被告の計算方法は相当であると解され、右計算方法によると、原告の昭和五二年分のプロパンガス使用量は、四九五・七立方メートルとなる。

3  別表四ないし五記載の同業者の本件係争年における総収入金額、事業用プロパンガスの使用量、算出所得金額及び原告のプロパンガス使用量に基づき、被告の主張2記載の計算方法によつて原告の算出所得金額を推計すると、昭和五二年分が金五二三万二七三五円、同五三年分が金六六八万二六二二円、同五四年分が金五八二万三二五五円となり、右各金額から当事者間に争いのない特別経費の額及び事業専従者控除額を控除すると、原告の事業所得の金額は、昭和五二年分が金三六九万六九九四円、同五三年分が金五二〇万二三四二円、同五四年分が金四二三万一一八九円となる。

四  被告主張の推計方法の合理性について

1  原告は、現金出納帳記載の売上、経費等をもとに売上及び所得額を推計するべきであると主張するが、証人安立謙治及び同宮嶋洋治の各証言並びに原告本人尋問の結果によれば、原告の場合、売上は、主として不特定多数の客に対し現金取引によつてなされていたこと、また、仕入も、本件係争年当時は主として現金取引によつていたため、その仕入先に記録が殆ど残つていなかつたことが認められ、右事実によれば、売上ないし経費の実額を把握することは困難であり、したがつて、現金出納帳の記載漏れの割合を確定することもできないので、現金出納帳の記載をもとに推計する方法は、原告の所得額を推計するためには、合理的であるとはいえない。

そして、原告の売上金額ないし仕入金額をもとに同業者の差益率、所得率などによつて原告の所得額を推計する方法についても、原告の売上ないし経費の実額を把握することができないのであるから、原告の所得額を推計する方法としては合理的であるとはいえない。

2  したがつて、本件では、プロパンガス、電気、水道等の使用量を計算単位として原告の売上金額を求め、それを基礎数値として同業者の算出所得率を適用するという、いわゆる効率法によつて推計するのが最も合理的であるというべきところ、証人宮嶋洋治の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告の営む事業は、店内にガスロースターを備え、ロース、カルビ、ホルモン等の肉類、野菜、米飯等を顧客に提供し、顧客自らガスロースターで肉類や野菜をあぶり焼きしながら飲食を行うものであること、原告は、そのガスロースターの燃料としてプロパンガスを利用していること、昭和五三年度に原告の水道の使用量が極めて多い時期があり、これについて原告は、税務調査の際に被告の係官に対し、水漏れがあつたためであると説明していることが認められ、右事実によれば、水道使用量はデータが不確実なので推計の計算単位とすることは適当ではないし、原告の事業形態からすると、電気使用量よりプロパンガス使用量の方が売上の多寡に直接結びつき易いと考えられるので、推計の計算単位には、プロパンガスの使用量を用いることが相当であると解される。

3  これに対し、原告は、被告の調査に係る別表四ないし六記載の数値をもとにして、独自の計算根拠によつてプロパンガスの使用量を推計の計算単位とすることの合理性には疑問を呈しているので以下これにつき検討する。

(一)  原告は、プロパンガスの使用量が直接売上に比例するのなら、同業者の藤枝ア、藤枝イ、島田ア、浜松アの四事業所において、同一量のプロパンガスを消費した場合、売上高はほぼ同一となるはずであると主張するが、同業者率による推計において、当該納税者と業種、業態、事業規模等が同一で、かつ、個々の営業条件まですべて同一な同業者だけを抽出して推計するのは極めて困難であると考えられるので、各同業者の営業条件の違いによつて、プロパンガス使用量と売上との比率に差異が生ずるのはやむをえないというべきであり、この営業条件の差による影響を均すためにこそ各同業者の平均値を求めてこれによつて原告の売上を推計しているのであるから、プロパンガスの使用量と各自業者の売上の比率が一致しないからといつて、そのことによつてプロパンガスの使用量と売上との間に正比例の関係があることまで否定されるものではない。

(二)  また、原告は、同業者のプロパンガス使用量によつて生み出される熱量を、肉を焼き上げるに必要とする熱量で除し、それに単価を乗ずる方法で同業者の総売上額を推計すると、実際の売上額の十数倍もの売上額となるので、同業者の店舗において顧客がガスロースターで肉をあぶり焼きするのに使用するプロパンガスの量は同業者の全使用量に比較すると少ないことが推認され、したがつて、原告の事業において、プロパンガスの使用量を売上推計の単位とすることは、合理的ではないと主張する。

弁論の全趣旨によれば、原告事業所及び同業者のような焼肉店においては、ガスロースターによつて肉及び野菜等をあぶり焼くするほか、湯沸かし、鉄板の加熱、米飯や味噌汁作り等のためにもプロパンガスが使用されるものと推認されるから、顧客がガスロースターで肉をあぶり焼きするのに直接使用されるプロパンガスの量は同業者の全使用量に比較すると必ずしも多いとはいえないものと考えられるが、湯沸かし、鉄板の加熱、米飯や味噌汁作り等に使用されるプロパンガスの量も、経験則上、すべて顧客の多寡に応じて増減し、売上に正比例するものであるといい得るから、肉の焼き上げに直接関与するプロパンガスの使用量の全使用量に占める割合が小さいとの計算結果が出たとしても、そのことによつて、プロパンガス使用量と売上との間に正比例関係が存在することが左右されるものではない。

(三)  更に、原告は、同業者一件一件の昭和五三年のプロパンガス使用量と売上との比率を算出して昭和五四年のプロパンガス使用量に乗ずることによつて算出された売上額と、実際の売上額との間の誤差が各同業者によつてばらばらであるから、気候の寒暖が同業者についても等しくその使用量の増減に影響を及ぼすとはいえないと主張するが、前掲乙第三号証の一ないし七によれば、同一の業者であつても年度によつて従業員の数、ガスロースターの数が変化しているものがあることが認められるので、年度によつてプロパンガス使用量と売上との比率が変化する理由には、気候の寒暖の他にこのような営業条件の変化もあることが窺われ、したがつて、プロパンガス使用量と売上との比率の年度による変化が各同業者間において区々であることによつて、気候の寒暖が同業者についてもそのプロパンガス使用量に等しく影響を及ぼすとの被告の主張が否定されるものではない。

そして、仮に、本件店舗と同業者の店舗との立地条件の差異によつて、気候の寒暖がプロパンガス使用量に対して及ぼす影響に多少の違いが出ることがあつたとしても、この違いは売上の推計に当たつて同業者の平均値を求めることで吸収されるものと解されるから、プロパンガスの使用量を推計の計算単位とすることに合理性がないとはいえない。

4  以上のとおり、プロパンガスの使用量をもとに原告の売上を推計することは合理的であると解されるが、原告のプロパンガスの全使用量のうち、売上とは比例しない又は売上とはまつたく関係がないガス使用量は、売上の推計計算に当たつて控除するべきであるから、右控除分につき更に検討する。

(一)  証人伊藤貞義の証言、原告本人尋問の結果によれば、本件係争年当時本件店舗には、ガスロースターの他にガス風呂、ガスストーブ及びガス湯沸器各一台があつたこと、本件係争年当時の本件店舗の間取りは、焼肉テーブルが置いてある土間と客用の六畳座敷が二間、その他に家族用の部屋が二間あつたこと、ガスストーブは、土間に置かれていたこと、以上の事実が認められる。

したがつて、右ガス器具のうち、ガスストーブは、営業用の暖房にのみ使用されていたものと考えられ、また、ガス湯沸器は、主に焼肉用の鉄板や客用の食器の洗浄等のために使用されていたものと考えられるから、営業とはまつたく無関係なガス器具は、ガス風呂のみであるということができる。

(二)  そこで、まずガス風呂のプロパンガス使用量について、検討するに、原告は、原告とその家族(夫一洋、長男直樹、長女ひとみ)は、本件係争年当時、本件店舗に居住し、右ガス風呂を沸かして毎日入浴しており、このために使用されたプロパンガスの量は、年間一五三立方メートルに及ぶと主張し、原告本人尋問中には、これに沿う供述がある。

しかしながら、成立に争いのない乙第四、第五号証、第九号証の一ないし三、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙一二号証の一、弁論の全趣旨によつて真正に成立しことが認められる乙第一二号証の二、証人安立謙治、同宮嶋洋治の各証言、原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件係争年における原告及びその家族の住民票の住所は、原告の夫の両親が住む浜岡町下朝比奈一七三一番地の一(以下「下朝比奈」という。)であり、右住所地から本件店舗の所在する同町池新田五二〇三番地の三及び同所五二〇四番地の三に住民票の住所を移動させたのは昭和五七年四月二日のことである。

(2) 原告は、本件係争年分のいずれについても、下朝比奈を住所地として所得税の確定申告をしており、原告の夫一洋が労働金庫から住宅ローンを借りる際に設定した抵当権の設定登記の債務者欄の住所も下朝比奈であり、本件の訴状においても、「原告は、昭和五七年三月までは下朝比奈に居住していた」旨記載されている。

(3) 本件店舗は、四人家族が住むには手狭で、昭和五六年一〇月には本件店舗を増築して子供部屋を作つているところ、下朝比奈におけるプロパンガスの月別供給量をみると、昭和五六年一〇月まではほとんどの月が一〇立方メートルを超えているのに対し、同年一一月以降は、昭和五七年二月と一一月を除いていずれも一〇立方メートルを下回つており、本件店舗の増築と時期を同じくして下朝比奈のプロパンガス供給量が著しく減少している。

(3) 本件係争年中において、原告の長男と長女は小学生で、下朝比奈の家に近い浜岡北小学校に通学していたが、下朝比奈の家と本件店舗は、約三キロメートル位離れている。

(5) 本件店舗の営業時間は、午後五時から午後一一時頃までで、後片付けに午後一二時過ぎまで掛かることもあつた。

(6) 昭和五五年五月から同五六年二月にかけて行われた前記二(一)の税務調査の際、安立係官が日中に本件店舗を訪れても、留守であつたことが三、四回あつた。右事実によれば、原告ないしその家族が、特に冬場などに、下朝比奈の家から通うのが大変なため、本件店舗に泊り込むこともあつたと推認されるが、原告及びその家族が本件店舗に毎日泊まつていたとは考えられず、生活のかなりの部分は下朝比奈の家において過ごしていたと認める方が自然である。そして、前掲乙第六号証の一、二、証人宮嶋洋治の証言によれば、本件係争年における静岡県内の一般家庭におけるプロパンガスの年平均使用量は、約一三二立方メートルであることが認められ、右一三二立方メートルには、ガス風呂、暖房、及び炊事のための使用分が含まれていると考えられるから、原告とその家族の右生活実態に照らせば、本件店舗におけるガス風呂のプロパンガスの使用量は、一三二立方メートルを相当下回るものと認めるのが相当であり、これに反する原告本人尋問中の前記供述部分は、にわかに採用することができないという外はない。

(三)  次に、売上とは直接比例しないと解されるガスストーブの使用量について検討するに、原告は、ガスストーブは、本件店舗の土間の暖房をうけもつていたので、そのプロパンガス使用量はかなり多い旨主張する。

しかしながら、原告自身、本人尋問において、店の暖房用に灯油を購入していたことを認めており、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき第一三号証の一、二、証人宮嶋洋治の証言及びこれによつて真正に成立したことが認められる乙八号証の一によれば、原告が昭和五四年一月ないし三月、同年一一月及び一二月の五か月間に訴外株式会社山下燃料店から本件店舗に配達してもらつた白灯油の代金は、別表七の「金額」欄記載のとおりであること、静岡県生活環境部長回答に係る昭和五四年の家庭用灯油一八リットル当たりの配達料込価格は、一月が六八二円、二月が六八〇円、三月が六八一円、一一月が一一一二円、一二月が一一九二円であること、右白灯油の購入額を配達料込価格で除した結果は、別表七の「リットル数」欄記載のとおりになること、昭和五二年分及び同五三年分の灯油については、現金扱いであり、山下燃料店に記録が残つていなかつたので購入額が不明であること、以上の事実が認められ、右事実によれば、原告の昭和五四年一月ないし三月、同年一一月及び一二月の五か月間の灯油の購入総数量は、一七三七リットル、一か月の平均購入数量は約三四七・四リットルで、一か月の営業日数を三〇日とすると、平均して毎日約一一・六リットルの白灯油でもつて本件店舗の暖房に使用していたことになり、資料のない昭和五二年及び五三年についても同様であつたと推認できる。

そして、前記(二)の原告及びその家族の生活実態に照らせば、家庭用暖房に使用された白灯油の量はそれほど多いとはいえず、購入された白灯油の大部分は、客間の暖房に使用されたものとみるべきところ、本件店舗のある浜岡町において、一日当たり一〇リットルを超える量の白灯油を使用して暖房しながら、更にガスストーブを使用しなければならないことは年間を通じても少ないと考えられるので、ガスストーブの使用時間は限られており、それによるプロパンガスの使用量は極めて小さいものと推認することができる。

(四)  以上によれば、ガス風呂及びガスストーブのためのプロパンガス使用量は、多く見積もつても、静岡県内の一般家庭におけるプロパンガスの年平均使用量である一三二立方メートルを超えることはないと見るのが相当であるが、右使用分は、売上とはまつたく関係がない又は売上とは比例しないものであるから、原告の売上の推計計算に当たつて控除するべきであると解される。

ところが、被告の主張2の推計計算においては、同業者の一立方メートル当たりの収入金額の平均値に原告のプロパンガス使用量の全量を乗じて原告の総収入金額としているので、この点で、被告の主張する推計計算には不備があるものといわざるを得ない。

五  本件課税処分の適法性について

1  そこで、被告の主張する推計計算における右の不備を補うために、各年分の原告のプロパンガス使用量からそれぞれ一三二立方メートルを控除して原告の総収入金額を計算し、これに基づいて原告の事業所得の金額を推計すると、

次のとおりになる。

昭和五二年分

平均収入金額 ガス使用量 控除分 総収入金額

34,374円×(495.7m3-132m3)=12,501,823円

総収入金額 算出所得率 算出所得金額

12,501,823円×30.71%=3,839,309円

算出所得金額 特別経費 事業専従者控除額 事業所得の金額

3,839,309円-1,135,741円-400,000円=2,303,560円

昭和53年分

平均収入金額 ガス使用量 控除分 総収入金額

34,135円×(560.4m3-132m3)=17,695,584円

総収入金額 算出所得率 算出所得金額

17,695,584円×30.10%=5,326,370円

算出所得金額 特別経費 事業専従者控除額 事業所得の金額

5,326,370円-1,080,028円-400,000円=3,846,090円

昭和54年分

平均収入金額 ガス使用量 控除分 総収入金額

33,669円×(497m3-132m3)=12,289,185円

総収入金額 算出所得率 算出所得金額

12,289,185円×34.80%=4,276,636円

算出所得金額 特別経費 事業専従者控除額 事業所得の金額

4,276,636円-1,192,066円-400,000円=2,684,570円

2 右計算によれば、原告の事業所得の金額は、昭和五二年分が金二三〇万三五六〇円、同五三年分が三八四万六〇九〇円、同五四年分が二六八万四五七〇円となるところ、本件各更正に係る総所得金額は、別表一ないし三の「更正賦課決定」欄のとおりであつて、いずれも右金額の範囲内であるから、結局のところ、本件各更生は、適法であると解される。

したがつて、原告は、本件係争年の所得税確定申告を過少に行つていたことになるから、国税通則法六五条一項の規定に基づいてなされた本件各賦課決定も適法であるというべきである。

六  以上のとおり、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分に違法はないから、原告の本訴請求を失当としていずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 中山幾次郎 裁判官松島節子は、転補のため署名捺印できない 裁判長裁判官 塩崎勤)

同業者の抽出基準

同業者の抽出基準は次の(1)ないし(3)の条件のすべてに該当する者を抽出した。

(1) 店内にガスロースター(焼肉器)を備え、ロース、カルビ、ミノ、ホルモン等の肉類及び酒類、米飯を顧客に提供する業務を営んでいる者

ただし、次の各号に該当する者は除く。

イ 年の中途において、開廃業、休業又は業態変更した者

ロ 更正又は決定処分が行われた者のうち、国税通則法又は行訴法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない者並びに不服申立て又は訴訟中の者

(2) 各年分において、プロパンガス(LPガス)を事業用ガスとして使用し、その使用量が二三〇立方メートル以上一、三〇〇立方メートル以下である者

なお、事業用ガス使用量の算定に当たつて、特段の事情のない限り事業用と住所とが同一である場合には年間ガス総使用量から一三二立方メートルを控除した数量を事業用ガス使用量とすること。

(3) 各年分において、当該事業に従事した人数が二人以上六人以内の者

なお、従事人員は事業主、その配偶者及び使用人等で、当該事業に従事した期間及び従事割合等を換算の上計算すること。

(4) 各年分において、事業に供していたガスロースターが六台以上二二台以内の者

別表一

昭和五二年分

〈省略〉

(注) 所得税額は、昭和五二年分所得税の特別減税のための臨時措置法による減税額六、〇〇〇円を控除した後のものである。

別表二

昭和五三年分

〈省略〉

別表三

昭和五四年分

〈省略〉

別表四

昭和52年分同業者比率表

〈省略〉

別表五

昭和53年分同業者比率表

〈省略〉

別表六

昭和54年分同業者比率表

〈省略〉

別表七

〈省略〉

(注) 1 リットル数は静岡県生活環境部長解答(乙第13号証)の、家庭用灯油18リットル配達料込価格により算出した。

2 算出に当たり端数は切り捨てた。

別表八

〈省略〉

別表八

平均気温

〈省略〉

最高気温

〈省略〉

最低気温

〈省略〉

別表一〇

南大園(杉浦美智代)に於ける寒さ(気温)とガス使用量の推移

〈省略〉

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